居酒屋ぼったくり 秋川滝美 感想
「旨い酒と美味い飯、そして優しい人がここにいる。」
この謳い文句に惹かれることになったことが、はじまりだった。
どうにか仕事が一段落つくなり、すぐ立ち寄った書店にて、勢いのまま購入することに。
それは、アルファポリス・星雲社から出版することになった、秋川滝美の短編連作小説3部。
前年2014(平成26)年5月7日水曜日に発売の第1弾『居酒屋ぼったくり』は、早いうちに両親を亡くした薄幸の姉妹・美音と馨による、8人がけのカウンターと小上がりに卓が2つの小さなお店を取り仕切る物語から。
特に、姉の美音は苦労を乗り越えたしっかり者ゆえ、料理名人の父の味を受け継いでいて、細かいところに気を回す反面、やや頑固で、口も悪い。 それぞれの客の好みや背景まで考えながら、毎日、気の利いた肴でもてなしてゆく。
お店に集うのは、誠実に毎日を生きている反面、それぞれに悩みを抱える市井の人たち。 お店の美味しい肴を食べて、美音と話をすることが楽しみ。
次第に人たちは癒されて、美音自身も救われていくことに。
同年10月発売の第2弾『居酒屋ぼったくり 2』は、第1弾より一歩進んだ状況を楽しんで読めることに。
試しにつくってみた、山芋ステーキ、とろろステーキ、作中より若干劣るものの、なかなかの美味しさ。
2月26日木曜日発売の第3弾『居酒屋ぼったくり 3』は、お品書きに恵方巻きの記されているように、季節は節分の話かな。
ただ、より人情により深い比重が置かれてしまったかのよう。
もし、第4弾の発売があるならば、すぐにでも食べたくなるような料理・酒の描写がほしいかなあ。
読み始め当初は、2009(平成21)年10月からMBS・TBS系列で小林薫主演でテレビドラマ化され、2011(平成23)年10月から続編が放送された『深夜食堂』のような作風かと感じたものの、それはほんのわずか。
ハードボイルドとは全くの無縁で、この御時世においては珍しい義理人情と温かい人々のふれあいの描かれた短編連作小説という構成。
すなわち、全体的にみて、ほのぼのとした紹介。 お酒好きのみならず、お料理好きにも大いにためになる、面白い作風。
全国の銘酒情報といい、簡単なつまみの作り方といい、著者の知識の深さや配慮を大いに実感したゆえに、まさに料理の描写力の際立つ居酒屋小説の王道そのもので、気の向いた時に気軽に目を通せるなあ。
今さらながら、どうして早く気付かなかったんだろうという思いに駆られてしまった。
もし、自分の家の近くに、このような飲み屋があったら、どれだけ心が安らげるだろうなあ。
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