朝井リョウ 世界地図の下書き 武道館
お恥ずかしながら、あの2012(平成24)年8月中旬に公開された映画『桐島、部活やめるってよ』以来、ご無沙汰だった。
その反動からか、ちょうど1ヶ月前に、何気に書店に立ち寄ったところ、朝井リョウの名が目に入るなり、衝動的に二冊を購入。
一冊目は、あの2013(平成25)年7月5日金曜日発売の『世界地図の下書き』(集英社)。
「青葉おひさまの家」という養護施設を舞台に、両親の交通事故死で入所することとなった小学生・大輔の成長を描いた3年間の物語...。
当初は心を頑なに閉ざしていたものの、6歳上の佐緒里や他の3人の同じ班の仲間とのあらゆる関わりから、少しずつ打ち解けてゆく姿、温かかった。
特に、佐緒里が施設を卒業することとなる「さよならの日」、大輔と他の3人の仲間による作戦を決行するまでの一連の動きが...。
しかしながら、小説とは違って、現実は厳しいもの。
ここでの物語同様、子どもなりの孤独感、学校でのイジメ、親族による虐待、といった忌まわしいニュースの続出...。
昔気質の方々からすれば、心が弱ってしまったせいだと、お叱りになりたくなるだろうけど...。
何よりもネットでのイジメほどより目に見えにくく、より陰湿なものゆえに、紋切型による解決だけでは立ち行かない時代になってしまったのかもしれない。
改めて読み返してみる必要ありそうだ。
二冊目は、この年4月24日金曜日発売の『武道館』(文藝春秋)。
結成当時から「武道館ライブ」を合言葉に活動してきた女性アイドルグループ・NEXT YOUに属するメンバーと、彼女らを取り巻く人間模様を中心にした展開が...。
独自のスタイルで行う握手会や、売上ランキングに入るための販売戦略、一曲につき二つのパターンがある振付など、さまざまな手段で人気と知名度をあげ、一歩ずつ目標に近づいていく反面、恋愛禁止、スルースキル、炎上、特典商法、握手会、卒業、といったアイドルを取り巻く言葉たちの交錯に垣間見る、望まない種類の視線も...。
いかなる仕事であれ、生き残りをかけてしのぎを削る姿は、生半可じゃない。
アイドルをアイドルたらしめているものとは一体...。
読み終わった今でも、その答えの出てこないのが、やりきれないかなあ。
ただ、一つ言えることは、アイドルも一人の人間だということ。
アイドル戦国時代と言われ始めて久しく、実際に彼女たちがこれを読んだら何を思うのか、まさに否応なく気になってしまう一冊。
いずれも、かの『桐島』同様、特定のかなりニッチなコミュニティ(例えるならば、中高生時代、就活の大学生など)特有の一見不可解で、秘匿的な感情の動きを、少し残酷に明るみに出して、最後には昇華させる作風の魅力が...。
余談ながら、あの2013(平成25)年7月14日日曜日放送のTBS『情熱大陸』の録画DVD、改めて鑑賞してみた。
会社員と作家の二足のワラジで日々を駆け抜ける姿は、まさに敬服。
聞くところによれば、執筆時間は、午前5時の起床から2時間、午後8時から9時の間の帰宅後から数時間。 しっかりしてるよなあ。
つい本人の言葉が、脳裏をよぎってしまった。
「今いる場所から転げ落ちてしまったら負けだと感じて、つらいながらも居続ける人にも、逃げるという選択肢があることを示したかった。 新しい場所には、元の場所にも同じくらいのつらさはあるかもしれないけど、楽しいことも同じくらいの可能性があることを」
決して忘れない。
かの言葉をより多くの人たちが実感できて、より良く生き抜くことができますように。
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